細胞培養加工施設設計の法規制も安心!適切な運用ができるコツ教えます
再生医療への参入を検討し始めたものの、「細胞培養加工施設(CPC)の設計って何から始めればいいの?」と頭を抱えていませんか?専門的な法規制や厳格な基準が多く、難しく感じてしまうのも無理はありません。
この記事では、初めての方にも分かりやすく、医療施設向けの細胞培養加工施設の設計に必要な基礎知識から、審査をクリアするためのポイントまでを丁寧に解説します。正しい知識を身につけて、安全で使いやすい施設づくりの第一歩を踏み出しましょう。
細胞培養加工施設(CPC/CPF)とは?設計前に知っておくべき基礎知識

細胞培養加工施設は、一般的にCPC(Cell Processing Center)やCPF(Cell Processing Facility)と呼ばれています。これから設計を考えるにあたって、まずは「なぜ特別な部屋が必要なのか」、その基本的な役割や一般のクリーンルームとの違いについて理解を深めておきましょう。
再生医療における細胞培養加工施設の役割
再生医療において、細胞培養加工施設は「細胞という生き物」を扱う心臓部ともいえる場所です。患者さんの体から採取した細胞を培養・加工し、再び体内に戻すための製剤を作るのですから、限りなく無菌に近い環境が求められます。
単に清潔であれば良いというわけではありません。細菌やウイルスによる汚染を防ぐことはもちろん、取り違えなどのヒューマンエラーが起きないような仕組みも必要です。つまり、細胞培養加工施設は「患者さんの安全を守るための砦」としての重要な役割を担っているといえるでしょう。
一般的なクリーンルームと細胞培養加工施設(CPC/CPF)の決定的な違い
よくある誤解として、「精密機器を作るクリーンルームと同じでしょ?」というものがあります。しかし、この2つには決定的な違いがあります。それは、「生物由来のリスク管理」です。
| 項目 | 一般的なクリーンルーム | 細胞培養加工施設(CPC/CPF) |
|---|---|---|
| 主な対象 | 工業製品(半導体など) | 生きた細胞・組織 |
| 管理の重点 | 塵や埃の排除 | 無菌性の保証・交叉汚染防止 |
| 洗浄・滅菌 | 物理的な清掃が主 | 薬剤による殺菌・滅菌が必須 |
| 法規制 | 工業規格(ISOなど) | 再生医療等安全性確保法・GCTP |
このように、細胞加工室では埃だけでなく、目に見えない菌やウイルスとの戦いも考慮した設計が必要不可欠です。
細胞培養加工施設(CPC/CPF)の設計に関わる法規制と構造設備基準

細胞培養加工施設の設計で最もハードルが高く感じるのが、複雑な法規制ではないでしょうか。しかし、ここを避けては通れません。安全な再生医療を提供するために定められた、2つの重要な基準について見ていきましょう。
「再生医療等の安全性の確保等に関する法律」の概要
この法律は、再生医療を安全に行うための大前提となるルールです。略して「再生医療等安全性確保法」とも呼ばれます。この法律では、リスクの程度に応じて提供する医療技術を第1種から第3種に分類し、それぞれに必要な手続きを定めています。
施設設計の観点からは、「どのような細胞の培養や加工を行うか」によって求められる設備要件が変わってくる点に注意が必要です。例えば、高度な無菌操作が必要な加工を行う場合は、より厳格な構造設備基準を満たさなければなりません。設計段階から、自分たちがどのカテゴリーの治療を行うのかを明確にしておくことが大切です。
ハードウェア要件をクリアするための条件
ハードウェア(施設・設備)に関しては再生医療等安全性確保法第42条に基づく構造設備基準をクリアする必要があります。
- 作業室の分離: 無菌操作を行う部屋とそれ以外を明確に分ける
- 空調システム: 清浄な空気を供給し、汚染空気を排出する仕組み
- 手洗い設備: 作業室に入る前に適切な手洗いができる場所の確保
- 清掃しやすい構造: 埃がたまらず、薬剤での清掃に耐える内装
これらはあくまで一部ですが、構造設備基準に適合した設計にすることで、後の審査や運用がスムーズに進むでしょう。
審査を通過し運用しやすい設計にする3つのポイント

法規制をクリアするのは最低限のラインです。実際に運用を始めた後に「使いにくい」「ミスが起きやすい」となっては困りますよね。ここでは、審査をスムーズに通過し、かつ日々の業務も快適に行えるような設計の3つの重要ポイントをご紹介します。
交差汚染を防ぐ「動線計画」と「ゾーニング」
一つ目のポイントは、人や物の動き(動線)と、エリア分け(ゾーニング)です。最も重要なのは、「清潔なもの」と「汚染されたもの」が交わらないようにすることです。これを「交差汚染(クロスコンタミネーション)の防止」と呼びます。
- 一方通行の動線: 入室から退室まで後戻りしないルートを作る
- パスボックスの活用: 人が出入りせずに物品だけを受け渡す小窓を設置
- 更衣室の配置: 段階的に着替えて清浄度を上げていくレイアウト
これらを意識した間取りにすることで、作業者のミスを減らし、安全性を高めることができます。
必要な清浄度を維持する「空調・室圧管理」
二つ目は、目に見えない空気の管理です。細胞加工室では、部屋ごとに適切な「気圧」を設定する必要があります。
基本的には、最も清潔に保ちたい部屋の気圧を高くし(陽圧)、外からの汚染空気が入り込まないようにします。逆に、ウイルスなどを扱う場合は、外に漏れ出さないよう気圧を低くする(陰圧)こともあります。
- 室圧制御: 部屋間の圧力差(差圧)を常にモニタリングする
- HEPAフィルタ: 高性能フィルタで空気中の微粒子を除去する
- 温度・湿度管理: 細胞にも作業者にも適切な環境を維持する
これらが適切に設計されていないと、どれだけ掃除をしても清浄度を維持できません。
塵埃を溜めず清掃しやすい「内装・材質選び」
三つ目は、床や壁、天井などの内装材選びです。細胞加工室では頻繁に薬剤を使った清掃や消毒が行われます。そのため、「汚れが落ちやすく、薬品に強い」素材を選ぶことが鉄則です。
- R加工(アール加工): 床と壁のつなぎ目を丸く仕上げ、埃がたまる隅をなくす
- フラットな表面: 凹凸の少ない壁材や照明器具を選び、拭き掃除をしやすくする
- 耐薬品性シート: アルコールや消毒液で劣化しない床材を使用する
細かな部分ですが、毎日の清掃負担を減らし、清潔な状態を長く保つために非常に重要なポイントです。
細胞培養加工施設(CPC/CPF)導入の流れと費用の考え方

実際に細胞加工室を作ろうと思ったとき、どのような手順で進み、どれくらいの費用を見込んでおけば良いのでしょうか。ここでは、プロジェクト全体の流れと、予算を左右する要因について解説します。全体像を把握して、無理のない計画を立てましょう。
構想から設計・施工・バリデーションまでのステップ
細胞加工室の導入は、ただ建物を建てるだけでは終わりません。完成後の検証(バリデーション)や申請業務まで含めたスケジュール管理が必要です。
- 基本構想: どのような治療を行うか、必要な規模や機能を決める
- 基本・実施設計: 動線や設備を図面に落とし込む
- 施工: 専門業者による建設工事
- バリデーション: 設備が設計通りに性能を発揮しているか検証・記録する
- 文書作成・申請: 手順書(SOP)の作成や法的な許可申請を行う
- 運用開始: トレーニングを経て実際の稼働へ
特に「バリデーション」は専門的な知識と時間を要するため、ここの期間もしっかり考慮しておいてください。
建設コストに影響を与える主な要因
「坪単価はいくら?」と気になるところですが、細胞加工室の建設コストは条件によって大きく変動します。費用に大きく影響するのは主に以下の要素です。
- 清浄度クラス: より高い清浄度(クラス1,000や100など)を求めると、空調設備費が上がる
- 部屋の広さと数: 単純な面積だけでなく、部屋を細かく分けるほど壁やドアが増えコスト増に
- 既存建物の状況: 給排水や電気容量が足りない場合、インフラ改修費がかかる
- 機器のグレード: 安全キャビネットやインキュベーターなどの選定
予算オーバーを防ぐためにも、最初から「必須機能」と「あったら良い機能」を分けて検討することをおすすめします。
失敗しない設計・施工パートナーの選び方

細胞培養加工室の建設は、一般的な建築工事とは全く異なるノウハウが必要です。パートナー選びを間違えると、「完成したけれど許可が下りない」「使い勝手が悪くて改修が必要」といった事態になりかねません。失敗しないための選び方を見ていきましょう。
再生医療分野での豊富な施工実績と専門知識
最も重視すべきは、「再生医療分野での具体的な施工実績」です。単なるクリーンルームの施工実績だけでなく、「細胞培養加工施設」を手がけた経験があるかを確認しましょう。
経験豊富な業者であれば、法規制のトレンドや、現場の作業者が動きやすいレイアウトなど、図面には現れないノウハウを持っています。「過去にどのようなトラブルがあり、どう解決したか」を質問してみるのも、その会社の実力を測る良い方法です。
許認可申請や運用マニュアル作成のサポート体制
ハードウェア(施設)を作るだけでなく、ソフト面(運用)までサポートしてくれるかどうかも重要なポイントです。
- 構造設備の説明資料作成: 申請時に必要な図面や資料を用意してくれるか
- バリデーション実施: 性能検証を確実に実施し、記録を残してくれるか
- 運用マニュアルのサポート: 衛生管理や清掃手順書の作成を手伝ってくれるか
施設は作ってからが本番です。開業後のメンテナンスも含め、長く付き合える信頼できるパートナーを見つけてくださいね。
まとめ

医療施設向け細胞培養加工施設(CPC)の設計は、再生医療の安全性と品質を左右する非常に重要なプロジェクトです。一般的なクリーンルームとは異なり、再生医療等安全性確保法などの法規制を遵守し、生物由来のリスクを管理する視点が欠かせません。
動線計画や空調管理、内装選びなど、検討すべきことは山積みですが、焦る必要はありません。まずは自施設で行いたい医療の内容を明確にし、専門的な実績を持つパートナーと相談しながら一つずつクリアしていきましょう。
しっかりとした設計と計画があれば、スムーズな審査通過と、その後の安全で効率的な運用が実現できるはずです。みなさまの施設が、多くの患者さんに希望を届ける場所になることを応援しています。
