再生医療の施設要件がわかる!開業に必要な基準を優しく解説
再生医療を自院で導入したいと考えたとき、最初にぶつかる大きな壁が「どんな施設が必要なのか?」という疑問ではないでしょうか。
「法律が複雑でよくわからない」「今のクリニックの空き部屋で始められるの?」と不安に思う先生や担当者の方も多いはずです。再生医療を安全に行うためには、「再生医療等安全性確保法」に基づいた厳格な施設要件をクリアしなければなりません。
この記事では、これから再生医療を始めたいと検討している方に向けて、再生医療に必要な「施設要件(構造設備基準)」について、ハード面とソフト面の両方からやさしく解説します。
専門的な法律用語もできるだけ噛み砕いてお伝えしますので、まずは全体像を掴むことから始めてみましょう。正しい知識を身につけることが、安全な再生医療への第一歩です。
再生医療の実施に必要な「施設要件」の基本

再生医療を始めるには、単に治療技術があれば良いというわけではありません。患者様の安全を守るために、法律で定められたしっかりとした「場所」と「設備」を用意する必要があります。
ここではまず、再生医療を行う上で避けては通れない「施設要件」の基礎知識について、ポイントを絞ってお話ししますね。法律の難しい言葉にアレルギーがある方も、ここだけは押さえておきましょう。
再生医療等安全性確保法で定められた「構造設備基準」とは
再生医療を行うためのルールブックである「再生医療等安全性確保法」には、「構造設備基準」という決まりがあります。これは簡単に言うと、「細胞を扱う場所は、これくらい清潔で、安全に管理できる構造にしてくださいね」という国からの指定です。
具体的には、以下のような点が重視されます。
- 清潔さの維持: 雑菌が入らないような部屋のつくり
- 交差汚染の防止: ほかの検体や汚れと混ざらない工夫
- 管理のしやすさ: 清掃やメンテナンスがしやすい材質や構造
この基準は、扱う細胞のリスクや加工の内容によって厳しさが変わりますが、基本的には「患者様の体に入れる細胞を、汚染から守るための砦」だとイメージしてみてください。基準を満たしていない施設では、届出が受理されず、治療を開始することができません。
治療室だけでなく「細胞培養加工施設(CPC/CPF)」が必要になるケース
「診察室の片隅でちょっと細胞を加工する」といったことは、認められません。特に、体外で細胞を培養(増やしたりすること)したり、複雑な加工を行ったりする場合には、「細胞培養加工施設(CPC/CPF)」と呼ばれる専用の施設が必要になります。
CPCが必要になる主なケースは以下の通りです。
- 脂肪幹細胞などを培養して増やす場合
- 細胞の性質を変えるような加工をする場合
一方で、PRP療法(多血小板血漿)のように、採血して遠心分離するだけの比較的シンプルな加工であれば、大掛かりなCPCまでは求められないこともあります。ただし、その場合でも清潔な操作スペースや適切な機器は必須です。「自分たちがやりたい治療にはどのレベルの施設が必要か」を最初に見極めることが大切です。
【ハード面】細胞培養加工施設に求められる3つの具体的要件

細胞を培養するための施設(CPC)には、目に見える建物や設備としての「ハード面」の要件がいくつかあります。これらは後から変更するのが大変なので、設計段階でしっかり計画する必要があります。
ここでは、特に重要となる3つのポイントに絞って見ていきましょう。これから内装工事や物件探しをする際のチェックポイントとして活用してみてください。
1. 部屋の構造と動線(清潔区域と汚染区域の分離)
細胞加工施設で最も大切なのは、「汚れたもの」と「清潔なもの」が混ざらないようにすることです。そのためには、部屋の構造と動線(人の動き)を工夫する必要があります。
具体的には、以下のようなゾーニングが求められます。
- 更衣室(前室): 外からの汚れを持ち込まないよう、専用の作業着に着替える場所
- 手洗い・エアシャワー: 入室前に体を清浄にする設備
- 作業室(クリーンルーム): 実際に細胞を扱う最も清潔な部屋
人の動きは「一方通行(ワンウェイ)」が理想的です。清潔区域から出た人が、そのままの格好でまた戻ったりしないよう、動線を明確に分ける設計にしましょう。壁や床も、ホコリがたまりにくく、消毒薬で拭き掃除ができる材質を選ぶことが重要です。
2. 空調設備と清浄度(クリーンルームの確保)
目に見えない「空気のキレイさ」も非常に重要です。普通の部屋の空気には、目に見えないチリやカビの胞子などがたくさん浮遊しています。これらが細胞に混入すると大変な事故につながりかねません。
そのため、CPCでは以下のような空調管理を行います。
- HEPAフィルター: 微細な粒子を取り除く超高性能フィルターを通した空気を送る
- 室圧制御(陽圧管理): 部屋の中の気圧を外より高くし、外の汚れた空気が入ってこないようにする
- 温湿度管理: カビの発生を防ぎ、作業しやすい環境を保つ
これらによって、手術室と以上の「清浄度(クリーン度)」を常にキープする必要があるのです。
3. 必須となる製造・品質管理機器(キャビネット等)
部屋がキレイでも、肝心の作業をする道具が揃っていなければ意味がありませんよね。細胞培養には、専用の製造・品質管理機器が欠かせません。
主な必須機器は以下の通りです。
| 機器名 | 役割 |
|---|---|
| 安全キャビネット | 無菌状態で細胞を操作するための作業台 |
| CO2インキュベーター | 細胞を育てるための培養器(温度やCO2濃度を一定に保つ) |
| 顕微鏡 | 細胞の状態を観察・記録するためのもの |
| 保冷庫・冷凍庫 | 試薬や培地、細胞を適切に保管するためのもの |
これらの機器は、定期的に校正(正しく動いているかチェックすること)ができるものを選ぶ必要があります。家庭用の冷蔵庫などで代用せず、医療・研究用の信頼できる製品を選んでください。
【ソフト面】施設を運用するために必要な管理体制の要件

立派な施設を作っても、それを使いこなす「ルール」や「人」がしっかりしていなければ、安全な再生医療は提供できません。これを「ソフト面」の要件と呼びます。
厚生労働省への届出でも、この運用体制が整っているかは厳しくチェックされます。日々の業務負担にも関わってくる部分ですので、どのような管理が必要になるのか、具体的にイメージしておきましょう。
衛生管理・製造管理の手順書(SOP)の整備
「今日はAさんが担当だから手順が違う」といった属人化は、医療安全において最大のリスクです。誰が作業しても常に同じ品質を保てるよう、標準作業手順書(SOP)を作成し、それを遵守することが義務付けられています。
作成すべき手順書は多岐にわたります。
- 製造管理基準書: 細胞の受け入れから加工、出荷までの手順
- 品質管理基準書: 細胞が規格通りにできているか検査する手順
- 衛生管理基準書: 施設の清掃や服装、健康管理に関するルール
これらは一度作って終わりではなく、実際に運用しながら「使いにくい点はないか」「実情に合っているか」を見直し、常に最新の状態にアップデートしていく姿勢が大切です。スタッフ全員への教育訓練も忘れずに行いましょう。
機器の保守点検と記録の保管義務
施設や機器は、導入した瞬間から劣化が始まります。「気付いたらインキュベーターの温度がズレていた」なんてことになれば、大切な細胞が全滅してしまうかもしれません。再生医療における施設の要件としても、導入後の維持管理はとても大切です。
そのため、特に医療機関で使用される機器については、法令やガイドラインに基づき、次のような管理と記録が求められています。
- 保守点検: フィルター交換や機器の動作確認など、計画的なメンテナンスを行うこと
- 校正(キャリブレーション): 温度計や計測器が正しい値を示しているかを確認する作業(保守点検や品質管理の一環として行われます)
- 記録の保管: 製造記録や点検記録を、医療法や関連通知で定められた期間(例:3年など)や、自院のルールに従って保管すること
「いつ、誰が、何を確認し、結果はどうだったか」を記録に残すことは、万が一トラブルが起きた際に、自院の正当性を証明する証拠にもなります。
紙での管理だけでなく、クラウドなどを活用した効率的な記録管理も検討してみてください。その際は、「真正性」「見読性」「保存性」といった電子保存の要件を満たすシステムで運用することが必要です。
自院で施設要件を満たすか、外部委託するかの判断基準

ここまで読んで、「こんなに大変な設備と管理が必要なのか…」と少し気が重くなってしまったかもしれません。実は、再生医療を行うすべての医療機関が、自前でCPC(細胞培養加工施設)を持っているわけではありません。
「自院で施設を持つ」か、それとも「外部の企業に細胞加工を委託する」か。これは経営判断として非常に重要なポイントです。それぞれの特徴を比較してみましょう。
自院で施設を持つ(院内製造)場合
- メリット: 細胞の輸送コストがかからない、急なスケジュール変更に対応しやすい、自院の資産としてノウハウが蓄積される。
- デメリット: 建設費や機器購入などの初期投資が大きい、維持管理費(ランニングコスト)がかかる、培養担当者の雇用・教育が必要。
外部委託する場合
- メリット: 初期投資を大幅に抑えられる、高度な管理体制を持ったプロに任せられる、煩雑な書類作成やメンテナンスの手間が省ける。
- デメリット: 加工のたびに委託費用と輸送費がかかる、細胞輸送のリスクがある、当日の急な変更が難しい場合がある。
判断の基準としては、「年間の症例数」と「予算」が鍵になります。
症例数が多く、将来的に再生医療をクリニックの柱にしたいのであれば、初期投資をしてでも自院に施設を構える価値があるでしょう。逆に、まずは少数の症例からスモールスタートしたい、あるいは場所の確保が難しいという場合は、信頼できる外部の加工施設(特定細胞加工物製造事業者)と契約するのも賢い選択です。
どちらが良いか迷った際は、専門のコンサルタントやメーカーにシミュレーションを依頼してみるのも一つの手です。ご自身のクリニックのビジョンに合わせて、最適な方法を選んでください。
まとめ

再生医療を始めるための「施設要件」について、ハード面とソフト面の両方から解説してきました。
ポイントを振り返ってみましょう。
- 法律の遵守: 再生医療等安全性確保法の「構造設備基準」を満たすことが大前提。
- ハード面: 清潔区域と汚染区域の分離、適切な空調管理、必須機器の整備が必要。
- ソフト面: 誰がやっても同じ品質になる手順書(SOP)と、記録・保守点検の徹底。
- 選択肢: すべて自前で用意するだけでなく、外部委託という方法もある。
施設要件は非常に専門的で細かい規定が多いため、自己判断で進めてしまうと「工事が終わってから基準を満たしていないことが発覚した」という取り返しのつかない事態になりかねません。
まずは、再生医療に詳しい建築業者や行政書士、コンサルタントなどの専門家に相談し、二人三脚で準備を進めることを強くおすすめします。しっかりとした土台(施設)を作ることで、患者様に安心して受けていただける、質の高い再生医療を提供できるようになります。
